2025年 09月 01日
幸福の聖地・駅と黄色いハンカチ
この夏、頻繁に聞かされた言葉だが、
まさか、この地で体験するとは思わなかった。
7月下旬。今年も一週間ほど北海道を訪れたが、
驚くことに40度に迫る勢いで、地元九州よりも暑かった。
宿泊地にはエアコンはなく、何とか扇風機でしのいだが、
耐えきれずに、レンタカーの車内に涼を求める場面もあった。
避暑ではなく、暑さと闘った北の大地への旅を振り返りたい。
十勝の帯広空港に降り立ち、レンタカーを受け取りに行くと、
「こんな夏は始めてです」と言いながら、キーを手渡してくれた。
空港近くにある旧国鉄広尾線の幸福駅。
かつて近くにある愛国駅から幸福駅への切符が話題となり、
芹洋子さんが歌った“愛の国から幸福へ”もヒットした。
1987年(昭和62年)に赤字ローカル線だった広尾線は廃線。
駅は役割を終えたが、周辺は公園として整備され、
現在も幸福の聖地として、多くの観光客が訪れている。

幸福駅から北海道の大地を巡る旅をスタートさせた。
十勝のガーデン巡りを終えた後は、襟裳(えりも)岬へ。
付近は日高昆布の産地で、岬から昆布漁で賑わう海を眺めながら北上。
この季節は刈り取られたばかりの昆布を海辺に干す光景がみられる。
しばらく進むと競走馬の育成地として有名な浦河、静内、新冠に至る。
サラブレット銀座と呼ばれる牧場が続く道沿いで、ひと休みした。

“まだ一人暮らしで、俺を待っていてくれるなら、
黄色いハンカチをぶら下げておいてくれ。それが目印だ”
網走刑務所を出所した勇作は、妻の光枝に葉書を出す。
高倉健が演じる勇作と倍賞千恵子が扮する光枝が、
黄色いハンカチを背景に再会するラストシーンが感動的だった。
現在は、当時の炭住(炭鉱住宅)の一部が、住民達に守られ、
黄色いハンカチ想い出広場として、幸福の聖地となっている。
撮影時の赤い車や小道具を展示する炭住の中には、黄色い付箋紙が置かれ、
訪れた人達が幸福への様々な思いを記し、それが部屋中に貼られている。

この想い出広場があるのは、旧産炭地の夕張市。
最盛期には人口が12万人越えて、賑わった地域だが、
炭鉱閉山後は、急激に人口が減少して、現在は7千人程。
また、財政破綻による赤字再建団体入りなど、厳しい現状にあり、
夕張駅跡地周辺に建ち並ぶ廃業したホテルや商店が、それを物語る。
しかし一方で、夕張は特産のメロンを核に元気を取り戻そう頑張っている。
はためくハンカチは、そんな夕張の人達にとって、心の支えなのだろう。
広場を出て、方々の空き家を眺めながら、夕張高校の前を通りかかると、
“行動が未来を変える-夕張高校生徒会-”の横断幕が目に飛び込んできた。
黄色いハンカチだけでなく、生徒達の熱い志も、希望の灯だと感じた。
また訪れてみたい夕張。まちの振興を念じながら、メロンを味わいたい。
2025年 08月 15日
『あんぱん』に思う② みんなの正義
子供の頃、正義の味方に憧れ、
水戸黄門が印籠で、悪者を退治すると胸がスカッとした。
交わらない世界の正義。国や家族を守るためにと、
互いが正義を振りかざし、殺戮が繰り返される。
ウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ。
誰かが印籠を見せて解決してほしいが、それは無理。
国連が持つ平和の印籠は機能不全で何も期待できない。
やがて、多数の命を踏み台にした見せかけの平穏が、
不正義な妥協の後にやってくるのだろう。
永遠の平和へと続く扉はどこにあるのだろうか。

やなせたかしさん夫妻をモデルにした朝ドラ『あんぱん』。
その中で北村匠海さん扮する柳井嵩が発した言葉が心に残る。
“死んでいい命なんてひとつもない。
正しい戦争なんか、あるわけないんだ。
まやかしの正義で敵も味方も仲間も大勢死んだ。
正義なんか信じてはいけないんだ。
そんなもん、簡単にひっくり返るんだから。
でも、もし逆転しない正義があるとしたら、
すべての人を喜ばせる正義 。
僕はそれを、みつけたい”
みんなのために悪と闘うアンパンマン。
絵本には、自分の顔の一部を腹ぺこで泣く者に与える場面もあった。
やなせさんがみつけた正義はここにあるような気がする。

正義のあるべき姿とは・・・。
アリストテレスやロールズなど、多くの思想家が探求。
私も学生時代、仲間とキャベツをかじりながら議論し、
飲み明かした記憶がある。
内容は定かではないが、当時は喧嘩になるほど真剣だった気がする。
今も、世界の各地で多くの正義が踏みにじられ、
そんなものは幻で存在しない、と言い放ってしまいたくなる。
しかし待て、そうではない。
世界の紛争地や被災地。各地で飢えに苦しむ人達のために、
体を張って活動に励むボランティア。
世の中を見渡せば、正義のための活動が存在し、
飢餓や命の危機と向き合っている。
ボランティアは、助けを求めている人達のアンパンマンだ。
不正義が正義としてまかり通った大戦から80年。
今年も終戦の日がやってきた。
“死んでいい命なんてひとつもない。
正しい戦争なんか、あるわけない。
まやかしの正義で敵も味方も仲間も大勢死んだ。
すべての人を喜ばせる正義”
この言葉の意味を噛みしめたい。
2025年 08月 01日
酒と涙と小さな酒場
歓楽街・中州(福岡市)の外れにあるバー“OGUNI”。
中心地から春吉橋を渡り、天神方向に少し歩いて左折。
狭い路地の脇にある扉を開くと白髪のマスターが出迎えてくれる。
10人程が、やっと座れるL字型のカウンターだけの空間。
スコッチやバーボン等が並ぶ棚を背に客と向き合い、
注文された酒をソッと差し出すマスター。
只、それだけ。色気や華やかさとは無縁の店だが、
何故か、再び足を踏み入れたくなってしまう。

このバーに私を誘ってくれたのは、酒をこよなく愛する悪友。
そして、彼が差し出す名刺の肩書きは酒道五段。
勝手に創設した段位で、遊び心で作成した名刺ではあるが、
酒に対する思いと愛情が伝わってくる。
悪友は店に10年以上通い続ける古参の客。
一見、無口だが酒が入ると議論好き。
いつも、そんな彼と酒を飲み交わしながら論じているが、
マスターは、酔っぱらいの戯言を微笑みながら聴いてくれる。
人生いろいろ。
五〇歳を過ぎてから店を構え、それから20余年。
多くを語らないマスターだが、
様々な思いを抱えてやってくる客の人生模様を
カウンター越しに垣間見て、温かい思いで酒を差し出す。
一杯の酒を通して、多くの客の心を癒やし、
人生航路へのエールを贈り続けるマスター。
いろんな溜息や涙をみてきたに違いない。
古来、人間と酒の縁は深く、祭事にも用いられ、
英語のスピリッツ(精神)には蒸留酒という意味もある。
水に精神が宿ると酒になる、という言い伝えが語源らしい。
身体に精神が宿ると人間。水に精神が宿ると酒。
祝い酒、別れ酒、ひとり酒。
なるほど・・・。 だから、人間は嬉しいとき、
淋しいとき、悲しいときに、酒を呑みたくなる。
そう考えると、いい加減な酒道五段の名刺も格調高く感じられる。
酒が縁で知り合ったマスターと悪友。
酒を愛する二つの精神がカウンターを越しに向き合う。
この小さな酒場は、酒道の道場なのかもしれない。
暑い毎日。いや、暑すぎる毎日に悲鳴をあげながら、
冷たいビールとマスターが恋しくなるこの季節。
先日も店でビールやワインを楽しみながら、
悪友との白熱の議論を終えると、午前1時を過ぎていた。
あーぁ。また、今回も午前様になってしまった。
笑顔で見送ってくれるマスターに手を振り、
千鳥足で、春吉橋を渡り、宿へと向かう。
まぁ、翌日は二日酔い苦しむことになるのだが・・・・。
マスター、ありがとう。
いつまでも元気で、小さな酒場を守り続けてください。
散人見習より




