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“春はセンバツから”と言われますが、
君たちには、待望の春がやって来ませんでした。
春の選抜出場校の重要な選考資料となる昨秋の快進撃。
数々の強豪校を破った粘り強い勝利は、母校に伝わる
錦陵魂(赤土魂)を発揮した見事な闘いでした。
あと1勝で甲子園。21世紀枠での出場も叶わず、
残念ではありますが、九州大会ベスト8という母校初の快挙。
地元で育った普通の高校生でも、コツコツと努力すれば、
遠い夢の世界であった甲子園に手が届くかも……。
君たちが九州大会の初戦で勝利した瞬間、
私はスタンドで涙を流し、同窓の仲間達と抱き合いました。
夢と希望。そして、素晴らしい感動をありがとう。
自信と誇りをもって、堂々と胸を張ってください。


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現在、君たちは夏の甲子園に向け、努力精進している最中。
厳しい練習で流す汗と涙。思うようにならない苦しみや苛立ち。
様々な悩みや葛藤。自分自身とも闘っている日々だと思います。
しかし、その悩みや葛藤こそが、大人へと成長している証。
人間は完全ではなく失敗や悔しさから、多くを学んでいくものです。
悲観することなく、思い通りにならない日々こそを大切にしてください。
その全てが、将来の君たちにとって、貴重な財産となるはずです。

申し遅れましたが、私は母校の教壇に18年間、立ち続けた元教員。
また、君たちと同じグラウンドで汗を流した一人でもあります。
みやこ町の山間部、錦陵の地で開校された育徳館(旧豊津)高校。
母校は今年、創立267周年を迎える福岡県下で最も古い学校。
当然、野球部も全国屈指の歴史と伝統を有していますが、
甲子園への出場は夢のまた夢、果てしなく遠い存在でした。
特に私が在学した当時は、部員が9人揃わない弱小チーム。
廃部の危機に、部員確保のために請われて二年生から入部。
そんな部員ではありましたが、高校野球を通して多くを学び、
仲間と過ごしたグラウンドでの日々は、今も心の支えとなっています。

さて、やがて春が過ぎ、闘いの舞台となる夏がやってきます。
それは当たり前のことのようですが、そうではありません。
私が三年生の担任として迎えた四年前は、コロナ禍で大会が中止。
この年の球児達には、いつもの夏が、やって来ませんでした。
三年間の全てを賭けてきた最後の舞台が突然消え去り、
涙を流し、理不尽な現実と向き合いながら巣立っていった生徒達。
そんな彼らも昨秋、スタンドから大きな声援を送っていました。

君たちがプレーできることは、決して当たり前のことではなく、
保護者や先生、大会関係者等、多くの支えや応援があるからこそ。
当然、 勝利を重ねて甲子園を目指すことは重要ではありますが、
より大切なことは、君たちが感謝と誇りを持って悔いなく闘うこと。 
特に三年生は、最後となる暑い夏。自分自身を熱く輝かせてください。
いつもの夏がやって来て闘えることは、それだけで幸せなことです。
君たちの健闘を祈ります。
              錦陵の同窓生(元教員)より 


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# by inakasanjin | 2025-03-01 10:00 | Comments(0)

「どうして、こんな国になってしまったのだろう。
恥ずかしい。そして、世界の人達に申し訳ない」
昨年の11月、新大統領の当選が確実になった翌日、
来日していたアメリカの友人が淋しそうに呟いた。
 
もしトランプ氏が、また大統領になったら……。
世界が注目する中、アメリカ国民はトランプ氏を選択。
“もしトラ”が現実となり、“またトラ”となった。
保守主義とリベラル。自国第一と国際社会との協調。
求める幸せのかたち、人としての倫理観など、
大きくすれ違う思いや理想、あるべき国の姿。
分断という言葉で表現されている国民間の深い溝。
貧富の差が拡大していく中、インフレや移民問題等、
民衆の不満を巧妙に投票行動に結びつけるポピュリズム。
友人同様の思いをしているアメリカ国民は数多くいる。

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若い頃、何度かアメリカを旅行し、ワシントンも訪れた。
当時、様々な課題はあったが民主主義国家としての誇りを有し、
自由主義社会のリーダーとして輝いていたアメリカ。
世界政治の中心、ホワイトハウスや議事堂界隈で記念写真を撮り、
ポトマック河畔にあるリンカーン記念館にも立ち寄った。
館内のリンカーン大統領像の側に刻まれている民主主義の原点
ともいえる“人民の人民による人民のための政治”という言葉。
民主主義の根幹は、多数派が自己の利益のみを追求することなく、
少数派等の多様な意見を尊重して、お互いが共存していくこと。
人民のための政治、とは何なのか。今、その根幹が問われている。

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グレート アメリカ アゲインと叫び、自国第一主義を主張。
就任式では、偉大さを誇示するショーを演じるかのように、
次々と大統領令に署名していくトランプ氏。
中には、地球温暖化防止に向けてのパリ協定からの離脱、
世界保健機構(WHO)からの脱退も含まれていた。
国際社会からの孤立を深めようとしているアメリカ。
かつて、We Are The Worldの歌がヒットした頃、その推進役であった
超大国は、地球市民のあるべき姿とは、逆の方向に歩き始めた。

アメリカのマッカーサー草案が元になった日本国憲法。
戦後日本の指針となった憲法の格調高き前文には、こう記されている。
“われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して
他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は
普遍的なものであり、この法則に従うことは自国の主権を維持し
他国と対等関係に、立とうとする各国の責務であると信じる。

ポピュリズムが蔓延し、厳しい試練に立たされている世界の民主主義。
本来のグレートアメリカとは、世界から尊敬される国として、
日本国憲法前文が示す国際世界を築くための使命を担うこと。
そして、リンカーンの言葉の真髄を実践することだと思う。
アメリカの友人が、母国への誇りを取り戻すことができる4年間。
世界の安全と平和、多くの人権が尊重される4年間であってほしい。

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# by inakasanjin | 2025-02-15 10:00 | Comments(0)

軌跡と奇跡

第九も全国大会も、一切なくなってしまった。
あの時が一番辛かった。ようやく前に進めます。
演奏の後、そう言い、ハンカチで涙を拭うM先生。
長年、一緒に働いてきたが、先生の涙を初めてみた。
 
2024年7月26日、大観衆を前に第九を指揮する佐渡裕さん。
タクトの先で演奏するのはプロではなく、普通の中学・高校生。
70分余りの演奏後、舞台の生徒達全員が涙を流し、
賞賛と感動の拍手が、鳴り止まない。
大ホール2階席の片隅にいた私も手を叩き続けた。
「最高だった。将にティーンエイジャーが奇跡を起こした。
一生の想い出に残る第九だった」と佐渡さんも言っていた。


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昨年末、九州朝日放送の特番として放映された
キセキの第九~佐渡裕と育徳館管弦楽部6年~
生徒達が成長していく姿。佐渡さんや卒業生、M先生の思い。
奇跡の演奏会までの軌跡のTV映像を見て、感動が再現。
私自身、教師時代の記憶が蘇ってきて涙が止まらなかった。

福岡県みやこ町の山間部にある県立育徳館中・高等学校。
今年、創立267周年を迎える県下一の伝統校だ。
同校が豊津から育徳館に校名を変更し、中高一貫校となった頃、
M先生は音楽の教師として赴任してきた。
6年間なら弦楽器の指導もできる。
吹奏楽をオーケストラにしたい。
先生の提案を同窓会が後押し。管弦楽部がスタートした。

六年前、片田舎のオーケストラと出会った世界のマエストロ。
生徒達の目の輝きに感動した佐渡さんは指揮を約束。
第九の演奏に向け、必死に準備と練習を重ねた生徒達。
しかし、順調に進んでいた奇跡のプランは突然、消え去った。
当たり前に出来たことが、出来なくなったコロナ禍。
全ての部活動で大会が中止となり、第九の夢も崩れ去った。

当時、私は高校三年生の担任。
クラスには、管弦楽部の中心メンバーもいた。
どう励ませばいいのか……。励ましの言葉は無力でしかなかった。
こんな理不尽があっていいのか。教師人生で最も辛い時だった。
この三年生が卒業した年に私も定年退職。共に育徳館を去った

その後、毎年、部員は入れ替わったが、第九の演奏という
卒業生達の願いは代々、受け継がれて奇跡が実現した。
本舞台にはコロナ禍で参加できなかった生徒達も
不足するパートを支援する形で演奏に参加していた。
「あの目の輝きは、代々変わっても変わらなかった」
と佐渡さんはTVのインタビューで語っていた。
生徒と佐渡さん、そしてM先生の思いと絆。
六年間の軌跡が成し遂げた奇跡の第九演奏だった。

お疲れ様。演奏会の翌日、労いの連絡を入れると、
M先生は、次の演奏会に向けての練習を開始していた。
地域の誇り。育徳館管弦楽部は今年も全国大会に出場する。

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# by inakasanjin | 2025-02-01 10:00 | Comments(0)