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タイパと怠惰

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列車の揺れに身をゆだねながら読みかけの文庫本を閉じ、
ボーッと車窓を眺めながら、駅弁と缶ビールを楽しむ。
これこそが鉄道旅の醍醐味で、以前は普通に見られた光景だが、
今、そのスタイルを貫く私は少数派。いや、稀少な存在となり、
周囲はみんな、何かにせかされるようにスマホを操作し続けている。

タイムパフォーマンス。かけた時間に対する効果や満足度。
いかに早く目的を果たし、より高い成果を上げることができるか。
かつて、何日も図書館や資料室に通い詰めて獲得した知識や情報が、
手の中にある機器の活用で苦労することなく、一瞬にして得られる。
昨今、そんな時代の象徴的な言葉として、タイパが叫ばれている。

時は金なり。効率性が重視される今日の経済活動において、
時間を無駄に費やすことは損失であり、タイパは大切な概念。
列車内でパソコンを広げての書類作成やメールでの連絡調整など、
移動時間を有効に活用して仕事を処理する日常は、当たり前の光景。
大リーグでも、試合時間の短縮を目的に、投手の投球時間を制限する
ピッチクロック制度が導入される等、その潮流は勢いをましている。
そして、最近は文章までもが、AIを活用して作成されるようになった。
就職時の自己PRや志望動機もAIに頼る人達が増えているというが、
そんな、人間性が伴わない形だけの文章にどれだけの意味があるのか。
もはや、それはタイパではなく怠惰。というべきなのだろう。

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かつて、パスカルは、人間は考える葦である、という言葉を残し、
考えること、それ自体に人間としての尊厳があると説いた。
人間が人間らしく成長していくためには、それなりの時間が必要で、
世の中には、より早く結果を求める効率重視では、いけない分野もある。
特に教育活動では、子供たちに直ぐに答えを求めるよりも、物事の本質を
ジックリと考えてもらい、試行錯誤しながら学ぶ過程こそが大切だと思う。
科学の進歩も失敗の積み重ねで、直ぐに成果と結びつかない基礎研究が肝心。
そんな中、今年、坂口志文氏が制御性T細胞でノーベル生理学・医学賞、
金属有機構造体を開発した北川進氏が、ノーベル化学賞を受賞した。
坂口氏は長い不遇の時期を超え、否定されても自説の正しさを地道に証明。
北川氏は「役に立たないものでも役に立つ」「認められるには長い時間が必要」
と述べるなど、両氏ともに時間をかけて努力する重要性を強調している。

人間は人間であって、単純に成果を求めるロボットとは異なる。
理論や効率性だけではなく、思いや感情を伴って生きているのが人間。
だから、気が休まる余暇の中で、自己を取り戻したり、発見したり。
一見、ムダに見える時こそが大切で、明日へのエネルギーが蓄えられる。
小学校時代の道草。この季節は、ランドセルを放り投げての柿ちぎり。
取っ組み合いの喧嘩で先生に叱られたが、そんな遠回りや失敗を通じて、
心の温もりや痛み、ルールの大切さを学び、大人へと成長できた気がする。
ともあれ、周囲がどう変わろうとも、旅の友はスマホではなく車窓と文庫本。
これからも、世間に流されることなく、駅弁と缶ビールを堪能していきたい。

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by inakasanjin | 2025-12-01 10:00 | Comments(0)