2025年 08月 01日
酒と涙と小さな酒場
歓楽街・中州(福岡市)の外れにあるバー“OGUNI”。
中心地から春吉橋を渡り、天神方向に少し歩いて左折。
狭い路地の脇にある扉を開くと白髪のマスターが出迎えてくれる。
10人程が、やっと座れるL字型のカウンターだけの空間。
スコッチやバーボン等が並ぶ棚を背に客と向き合い、
注文された酒をソッと差し出すマスター。
只、それだけ。色気や華やかさとは無縁の店だが、
何故か、再び足を踏み入れたくなってしまう。

このバーに私を誘ってくれたのは、酒をこよなく愛する悪友。
そして、彼が差し出す名刺の肩書きは酒道五段。
勝手に創設した段位で、遊び心で作成した名刺ではあるが、
酒に対する思いと愛情が伝わってくる。
悪友は店に10年以上通い続ける古参の客。
一見、無口だが酒が入ると議論好き。
いつも、そんな彼と酒を飲み交わしながら論じているが、
マスターは、酔っぱらいの戯言を微笑みながら聴いてくれる。
人生いろいろ。
五〇歳を過ぎてから店を構え、それから20余年。
多くを語らないマスターだが、
様々な思いを抱えてやってくる客の人生模様を
カウンター越しに垣間見て、温かい思いで酒を差し出す。
一杯の酒を通して、多くの客の心を癒やし、
人生航路へのエールを贈り続けるマスター。
いろんな溜息や涙をみてきたに違いない。
古来、人間と酒の縁は深く、祭事にも用いられ、
英語のスピリッツ(精神)には蒸留酒という意味もある。
水に精神が宿ると酒になる、という言い伝えが語源らしい。
身体に精神が宿ると人間。水に精神が宿ると酒。
祝い酒、別れ酒、ひとり酒。
なるほど・・・。 だから、人間は嬉しいとき、
淋しいとき、悲しいときに、酒を呑みたくなる。
そう考えると、いい加減な酒道五段の名刺も格調高く感じられる。
酒が縁で知り合ったマスターと悪友。
酒を愛する二つの精神がカウンターを越しに向き合う。
この小さな酒場は、酒道の道場なのかもしれない。
暑い毎日。いや、暑すぎる毎日に悲鳴をあげながら、
冷たいビールとマスターが恋しくなるこの季節。
先日も店でビールやワインを楽しみながら、
悪友との白熱の議論を終えると、午前1時を過ぎていた。
あーぁ。また、今回も午前様になってしまった。
笑顔で見送ってくれるマスターに手を振り、
千鳥足で、春吉橋を渡り、宿へと向かう。
まぁ、翌日は二日酔い苦しむことになるのだが・・・・。
マスター、ありがとう。
いつまでも元気で、小さな酒場を守り続けてください。
散人見習より

by inakasanjin
| 2025-08-01 10:00
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