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酒と涙と小さな酒場

冷たいビールだが、何故か温かい。
歓楽街・中州(福岡市)の外れにあるバー“OGUNI”。
中心地から春吉橋を渡り、天神方向に少し歩いて左折。
狭い路地の脇にある扉を開くと白髪のマスターが出迎えてくれる。
10人程が、やっと座れるL字型のカウンターだけの空間。
スコッチやバーボン等が並ぶ棚を背に客と向き合い、
注文された酒をソッと差し出すマスター。
只、それだけ。色気や華やかさとは無縁の店だが、
何故か、再び足を踏み入れたくなってしまう。

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このバーに私を誘ってくれたのは、酒をこよなく愛する悪友。
そして、彼が差し出す名刺の肩書きは酒道五段。
勝手に創設した段位で、遊び心で作成した名刺ではあるが、
酒に対する思いと愛情が伝わってくる。
悪友は店に10年以上通い続ける古参の客。
一見、無口だが酒が入ると議論好き。
いつも、そんな彼と酒を飲み交わしながら論じているが、
マスターは、酔っぱらいの戯言を微笑みながら聴いてくれる。

人生いろいろ。
五〇歳を過ぎてから店を構え、それから20余年。
多くを語らないマスターだが、
様々な思いを抱えてやってくる客の人生模様を
カウンター越しに垣間見て、温かい思いで酒を差し出す。
一杯の酒を通して、多くの客の心を癒やし、
人生航路へのエールを贈り続けるマスター。
いろんな溜息や涙をみてきたに違いない。
 
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古来、人間と酒の縁は深く、祭事にも用いられ、
英語のスピリッツ(精神)には蒸留酒という意味もある。
水に精神が宿ると酒になる、という言い伝えが語源らしい。
身体に精神が宿ると人間。水に精神が宿ると酒。
祝い酒、別れ酒、ひとり酒。
なるほど・・・。 だから、人間は嬉しいとき、
淋しいとき、悲しいときに、酒を呑みたくなる。
そう考えると、いい加減な酒道五段の名刺も格調高く感じられる。
酒が縁で知り合ったマスターと悪友。
酒を愛する二つの精神がカウンターを越しに向き合う。
この小さな酒場は、酒道の道場なのかもしれない。

暑い毎日。いや、暑すぎる毎日に悲鳴をあげながら、
冷たいビールとマスターが恋しくなるこの季節。
先日も店でビールやワインを楽しみながら、
悪友との白熱の議論を終えると、午前1時を過ぎていた。
あーぁ。また、今回も午前様になってしまった。
笑顔で見送ってくれるマスターに手を振り、
千鳥足で、春吉橋を渡り、宿へと向かう。
まぁ、翌日は二日酔い苦しむことになるのだが・・・・。
マスター、ありがとう。
いつまでも元気で、小さな酒場を守り続けてください。


                散人見習より

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by inakasanjin | 2025-08-01 10:00 | Comments(0)