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弟とれんげ草


“君らが、この文を読むのが、いつになるかは知らない。
が、もし、この文にめぐり会ったなら、
じいやばばのことを思い出してくれれば、いい。
人は想い出だけしか、残せない。
君らには、まず、じじが幼い頃から抱いて生きてきた、
弟・博海(ひろみ)への想いを記しておく”

そんな書き出しから始まる、孫達へのメッセージ。
昨年、逝去された田舎散人こと、光畑浩治氏。
散人が綴ったメッセージは、次のように続いていく。

“れんげ草の季節だった。
大雨の降った翌日、家の前の小さな溝は水かさを増していた。
母さんの草履をしっかり掴んだままだった、な。
田んぼで父の馬鈴薯掘りを手伝っていて、
突然「兄ちゃん、帰る」と、お前は母が炊事する我が家に向かった。
家の近くまで行き、「博海が帰るよー」と、母に向かって叫んだ。
今でも、家に向かう姿が蘇る。その後、姿が見えなくなった。
村中の人が懸命に、お前を探した。暫くして、近くの小母さんが、
家の前の小溝にお前が沈んでいるのを見つけ、川底から引き上げた。
母は、そこにへたり込み、泣き崩れた。村の皆がお前の周りを囲んだ
お前の姿が消えて、見つけて、母の泣き崩れた情景までが記憶に残る”

この散人の想いをもとに、『故郷へ辿る道』という歌がつくられた。
先日、歌をつくった関係者や散人を慕う人達が集まり、
ライブハウスで演奏会が行われ、この歌が唄われた。
優しいメロディに包まれた歌詞の中に、こんなフレーズがあった。

♪今年もまた 新緑の季節を連れてくる
柔らかな陽だまりの中で 蘇るのは君の面影
心に眠る懐かしい場所 瞳とじれば そういつもそばにある♪

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 * * *

毎年春、散人は歌詞のような思いで、れんげ草を見つめていたのだろう。
そして昨年、散人は、天国で博海さんと再会。
これから二人は一緒に、れんげ草を見つめていくのだろう。

“じじの生きる原点は、弟の命が消えた時、
博海の死からと言っていい。
君らが重ねる日々が安泰であればいい。
しかし、何が起こり、何がどうなるか分からない時代。
生きる現実の中、それぞれの思索と行動をしっかり持って欲しい。
歩く道は、目の前にたくさんある。そこで自分の道をみつけて欲しい”

散人の、孫達へのメッセージ、は、このように締めくくられている。
五人の孫達は、じじのこの随想をいつ、どのように読むのだろうか。
読んだ後、じじが抱えて生きてきた想いを、どう受け止め、
田んぼに広がる、れんげ草をどんな想いでみつめていくのだろうか。
今年も、れんげ草の季節がやってきた。

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by inakasanjin | 2025-05-15 10:00 | Comments(0)