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軌跡と奇跡

第九も全国大会も、一切なくなってしまった。
あの時が一番辛かった。ようやく前に進めます。
演奏の後、そう言い、ハンカチで涙を拭うM先生。
長年、一緒に働いてきたが、先生の涙を初めてみた。
 
2024年7月26日、大観衆を前に第九を指揮する佐渡裕さん。
タクトの先で演奏するのはプロではなく、普通の中学・高校生。
70分余りの演奏後、舞台の生徒達全員が涙を流し、
賞賛と感動の拍手が、鳴り止まない。
大ホール2階席の片隅にいた私も手を叩き続けた。
「最高だった。将にティーンエイジャーが奇跡を起こした。
一生の想い出に残る第九だった」と佐渡さんも言っていた。


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昨年末、九州朝日放送の特番として放映された
キセキの第九~佐渡裕と育徳館管弦楽部6年~
生徒達が成長していく姿。佐渡さんや卒業生、M先生の思い。
奇跡の演奏会までの軌跡のTV映像を見て、感動が再現。
私自身、教師時代の記憶が蘇ってきて涙が止まらなかった。

福岡県みやこ町の山間部にある県立育徳館中・高等学校。
今年、創立267周年を迎える県下一の伝統校だ。
同校が豊津から育徳館に校名を変更し、中高一貫校となった頃、
M先生は音楽の教師として赴任してきた。
6年間なら弦楽器の指導もできる。
吹奏楽をオーケストラにしたい。
先生の提案を同窓会が後押し。管弦楽部がスタートした。

六年前、片田舎のオーケストラと出会った世界のマエストロ。
生徒達の目の輝きに感動した佐渡さんは指揮を約束。
第九の演奏に向け、必死に準備と練習を重ねた生徒達。
しかし、順調に進んでいた奇跡のプランは突然、消え去った。
当たり前に出来たことが、出来なくなったコロナ禍。
全ての部活動で大会が中止となり、第九の夢も崩れ去った。

当時、私は高校三年生の担任。
クラスには、管弦楽部の中心メンバーもいた。
どう励ませばいいのか……。励ましの言葉は無力でしかなかった。
こんな理不尽があっていいのか。教師人生で最も辛い時だった。
この三年生が卒業した年に私も定年退職。共に育徳館を去った

その後、毎年、部員は入れ替わったが、第九の演奏という
卒業生達の願いは代々、受け継がれて奇跡が実現した。
本舞台にはコロナ禍で参加できなかった生徒達も
不足するパートを支援する形で演奏に参加していた。
「あの目の輝きは、代々変わっても変わらなかった」
と佐渡さんはTVのインタビューで語っていた。
生徒と佐渡さん、そしてM先生の思いと絆。
六年間の軌跡が成し遂げた奇跡の第九演奏だった。

お疲れ様。演奏会の翌日、労いの連絡を入れると、
M先生は、次の演奏会に向けての練習を開始していた。
地域の誇り。育徳館管弦楽部は今年も全国大会に出場する。

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by inakasanjin | 2025-02-01 10:00 | Comments(0)