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リヤカーで日本1周徒歩の旅


 平成26年(2014)11月8日、福岡県行橋市下検地の写真家・中村順一さんが亡くなった。享年64歳。今年、3回忌。彼は筋萎縮性側索硬化症という筋肉の萎縮と筋力低下をきたす極めて進行の速い疾患だった。あっという間、本当に突然だった。というのは、豊前市の藤井悦子さん(74)の『豊前国三十三観音札所めぐり』(2014年7月刊・花乱社)の写真を彼に担当していただいた。旧豊前国、宇佐から京築、田川、北九州に散在する現在の「三十三観音札所」を撮ってもらった。死は、その本刊行後、間もなくだった。

 2011年春、彼が、いい写真を撮っていると聞き、行橋市内で写真展開催を依頼する際に会った。それは、彼が「還暦記念」にリヤカーで日本1周徒歩の旅を終えた後だった。2010年春、行橋をスタート、日本海側を上り太平洋側を下ってブログ「路傍から見た日本」を更新、景色を撮影しながら約9ケ月、日本1周約9600㌔余を踏破した。6千枚を超える写真を撮っていた。その中に東日本大震災1年前の東北路の景色も収まっていたのだ。彼に「2010年の夏、大震災前の風景」展を開いてもらった。消えてしまった景色に人々の温かいまなざしが注がれた。彼の「路傍から・・」のブログを追う。

▼家の中から氷の入ったお茶を持ってきてくれた。「九州からです」の説明に「大変でしたね」と優しい笑顔。たった1杯のお茶でこんなに心が和んだのは初めてだ。(青森県)

▼道路横の看板に大きな字で「さしのべる 手のぬくもりを どの子にも」と書いている。地元の中学生に励まされ、この洋野町種市の人は思いやりのある人が多いな。(岩手県)

▼三陸町を抜けた処で車が停まった。若い男女が「頑張ってください」と笑顔。お握り2個とスルメ、お茶の差し入れ。自分たちのだったのではと胸がジーンとした。(宮城県)

▼古い漁港、釣師という地名だ。道路沿いの納屋からおじいさんが出て来た。人間らしい実に良い顔。日本版ヘミングウェイ。許可を得てバチバチシャッターを切った。(福島県)

▼車が停まって「暑いでしょう」とお茶、車窓が開き「頑張って」と若い女性がスポーツドリンク、今日の差し入れは3回目だ。茨城県人の優しさに心打たれた。(茨城県)


 鎮魂こめた写真展は「あたりまえの景色」がいかに大切であるかが伝わった。寡黙な中村さんが撮り続けた「写心」は、生活の中で紡ぐ「あたりまえの心」ではなかったか。合掌。

by inakasanjin | 2023-12-01 09:00 | ふるさと京築 | Comments(0)