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コンニャクででも字は書ける


 108の文に108種の筆で各々1字を揮毫した書家(棚田看山)との共著『田舎日記一文一筆』(2014年、花乱社)を刊行した。本の帯に編集長が「コンニャクででも字は書ける」のコピーを付けた。随想の1文にコンニャクで「戦」を揮毫している。友曰く「何であれ、墨をつければ全て筆になる」そうで、筆の毛質が羊や鼬、猫、猿、馬、豚、猪、竹、藁、胎毛、人毛、蔓、芒などでの揮毫は、それぞれに独特な味わいを魅せる。(br)

 蒟蒻はサトイモ科の多年草で原産地はインドシナ半島。日本渡来は縄文説などだが、平安時代の辞書『和妙類聚集』(930年代)に「蒟蒻、其の根は白く、灰汁をもって煮れば、すなわち凝成す。苦酒(酢)をもってひたし、これを食す」が最古の文献と云われる。 
 また『拾遺和歌集』(1006年頃)には「野を見れば春めきにけり青葛こにやくままし若菜摘むべく」の歌も見える。こうした蒟蒻の歴史を振り返ると、鎌倉時代は味噌で煮て間食、室町では軽食、戦国になると豆腐などと食用とするとあり、庶民へ広く浸透したのは江戸時代のようだ。俳人の松尾芭蕉も「こにやくの刺身も些し梅の花」と詠む。

 蒟蒻療法もあるようで「精根つきた」ならば、だいコン、れんコン、コンぶ、コンにゃくなど「コン」のつくものを食べると良い、との伝えあり『和魂三才絵図』には「俗にいう、こんにゃくは腹中の土砂を下ろし、男子最も益あり」と難病に効くといわれ、諸国の大名が蒟蒻芋を領地に広めた。水戸藩では、武士の商法としてこんにゃく栽培が広く奨励され、中島藤右衛門が「蒟蒻芋を乾燥して粉にすることを考案」し、生芋の貯蔵、輸送が簡単になり、各地に売り出され蒟蒻産業の礎が築かれた。蒟蒻は、食べると体内の砂が出る「砂払い」と言われ、千年を超えて伝わる食材として親しまれている。

  しぐるるやこんにゃく冷えて臍の上               正岡子規
  旅を来てかすかに心の澄むものは一樹のかげの蒟蒻ぐさのたま   斎藤茂吉
  上州よこんにゃくを自慢するなかれ日本中どこにもうまいのがある 土屋文明

 第二次世界大戦中、蒟蒻が食卓から一時、消えた。日本陸軍が和紙と粘度の強い蒟蒻糊で気球を作った。蒟蒻芋が軍需品となった。気球は爆弾を積んだ兵器としてジェット気流に乗って米国に飛ぶ風船爆弾となった。今、ローカロリーの蒟蒻料理はブームのようだ。 









by inakasanjin | 2023-07-21 09:00 | 田舎日記 | Comments(0)