2023年 03月 24日
詩人の「短詩」を捜して見る
日本の文学は短詩形文学といわれ、和歌をはじめ連歌、連句、長歌、短歌、俳句、狂歌、狂句、川柳など「短い言葉」が生活文化にある。歌人、俳人、川柳人と「短文学」の裾野は幅広い。日本人は巧みな言葉を紡ぎ出す。美しい短い言葉(詩)を捜して見る。
作家の吉川英治(1892~1962/神奈川)と横綱・双葉山(穐吉定次1912~68/大分)の逸話がある。大相撲が年2場所時代、昭和11年(1936)1月から14年1月までの間、双葉山は「69連勝」の記録を作った。記録更新中、双葉山は親交の深い吉川に「先生、何か、書いてください」と頼むと、吉川は頷いて「江戸中でひとり淋しき勝角力」と書いた。横綱は、それを、じっと見つめ、大粒の涙を流した。勝者の孤独と哀しみを見つめる言葉に心打たれ涙した。詩を紡ぐとは、究極の生き方を語ることだろう。
詩人らの「短詩」いわゆる素直に「短い詩」で、遺されたいくつかを捜して見る。
萩原朔太郎(1886~1942/群馬)
人が家の中に住んでいるのは、地上の悲しい風景である。 ――「家」
荒井星花(1887~1942/茨城)
夏の日盛りに/鳳仙花がぱちり/はじけたら//
向日葵が/黙って笑っていた ――「鳳仙花」
三好達治(1900~64/大阪)
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。 ――「雪」
草野天平(1910~51/福島)
これが秋なのか/だれもいない寺の庭に/銀杏の葉は散っている ――「秋」
寺山修司(1935~83/青森)
なみだは/にんげんのつくることのできる/一ばん小さな/
海です ――「一ばんみじかい抒情詩」
詩は、一言が生きもすれば死にもする、みじかければ短いほど大事。たぶん世界一短い詩であろう草野心平(1903~88/福島)の「冬眠」は「●」の一字だけである。

