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「簡約日本語」の野元菊雄  

 いろんな分野で地道な活動をしている方がいる。3年前、福岡県築上町出身で東京在住の立命館アジア太平洋大学言語教育センターに勤めていた野元千寿子教授(68)を知った。最近、彼女から高校教科書「現代国語」(三省堂)に収録されている義父・野元菊雄「言語は色眼鏡である」の一文が届いた。

 中に「(略)外国語を学ぶということは、母語と違ったもう一つの色眼鏡でこの世界を観る時、同じ客観世界は全く別に見えることを知ることにある(略)自己の幅を広げ、自分だけをよしとする態度を反省し、他の文化への寛容を学ぶことである。これこそが世界平和の基礎となるものであろう」と記されていた。


 この1つのモノを観る視点についての論考を深める研究があるようで、その研究者として神奈川県横須賀市生まれの野元菊雄(1922~2006)教授がいた。

 彼は東大言語学科卒業後、ロンドン・サンパウロ・ハワイ大学教授などを歴任。後、国立国語研究所長時代(1988年頃)に「簡約日本語」研究をスタートさせた人物だ。これはロンドン大学時代にベーシックイングリッシュいわゆる「簡単な英語体系」をヒントにした新しい研究だったようだ。外国人の日本語学習を容易にするため「語彙数制限」や「文法を簡素」にした人工的な日本語だとされる。そして、やがては段階を追って人工言語から自然言語に近づく研究へ向かうようだ。「簡約日本語(野元菊雄)」の例文をネット検索で見つけた。


 《書き換え前》まず北風が強く吹き始めた。しかし北風が強く吹けば吹くほど、旅人はマントにくるまるのだった。遂に北風は、彼からマントを脱がせるのをあきらめた。

 《簡約日本語》まず北の風が強く吹き始めました。しかし北の風が強く吹きますと吹きますほど、旅行をします人は、上に着ますものを強く体につけました。とうとう北の風は彼から上に着ますものを脱ぎさせますことをやめませんとなりませんでした。


 グローバルスタンダードの世界にあって、今、義父の理念を受け継ぐ千寿子さんは研究発足時の「文法」重視ではなく「文型」のコミュニケ―ションを主体に置く「やさしい日本語」普及に力を注いでいる。

 ところで菊雄さんの教え子だった中国の日本語研究者・張厚泉さんの尽力によって上海の東華大学日本語研究科に「野元菊雄文庫」(野元桂顧問)が設置され、著作や資料が納められている。学びの中で生まれた人の繋がりの勁さを思う。


by inakasanjin | 2022-05-06 09:00 | ふるさと京築 | Comments(0)