2022年 02月 18日
歩いた道は『花万朶』
令和3年(2021)秋、福岡県みやこ町「吉祥院」の坊守で俳人として活躍していた松清ともこさん(享年78)の遺句集『花万朶』が届いた。実は、1年前、兵庫県に住む松清さんの娘・浜名真由子さん(41)から「母の3回忌に句集を」の連絡で、福岡の「花乱社」の別府大悟氏と寺を訪ね、松清卓英住職(42)、真由子さんと面談、出版に入った。
ともこさんの句集は『胡桃のはなし』『小鳥のはなし』『豊の国』に続く第4句集になる。
タイトルは「花に酔ひ詩に酔ひたる一世かな」と詠んだ母の人生を想い「この峠越ゆれば故郷花万朶」から真由子さんが、優しかった母の暮らしはいつも「花」への想いがあったのでは、と『花万朶』にしたようだ。題字は、筆者畏友の書家・棚田看山(74)君の揮毫。まさに、ともこさんを思い起こさせる優しい、流れるような書である。句集には平成22年(2010)から31年までの544句が「緑雨」「蚕豆」「にほひ桜」「可惜夜」「青英彦」「曼珠沙華」に納まっている。彼岸に心潤おす句集『花万朶』ができた。句を追う。
さくら咲く英彦の岩瀬の水響き かなかなの鳴きて日暮れをかなします
兄となる子の枕辺や螢籠 しづけさの森に焚火の爆ぜる音
清水は八坂七坂玉霰 念仏のこぼるる如き落葉かな
ころころと田螺ころがる子らの道 亡き夫に酌む可惜夜の菊の酒
夕闇の迫りて匂ふ山桜 雀の子塔の九輪をこぼれ翔つ
鉦太鼓鳴らし始まる山車連歌 除夜の鐘撞くやインドの娘もまじへ
ともこさんは、香春町に生まれた。彼女の句歴を追ってみると、中学生の頃から句作を始めたようで地元の俳句会(小坂螢泉主宰)に入会。本格的には昭和34年(1959)に『馬酔木』の野見山朱鳥に師事、昭和53年に『円』の岡部六弥太、平成22年に『青嶺』の岸原清行と共に句の道を歩んだようだ。また郷土では「綱敷天満宮俳句大会」や「竹下しづの女顕彰俳句大会」、「今井津須佐神社奉納連歌」などで活躍。その行事で何度かお会いし、お話をしたことがある。温和で規律正しい姿勢は、テキパキ対応の「みやこ町塔祭り俳句大会」によせられる少年少女の「万句」にも及ぶ選を素早く捌く姿にも表れていた。
彼女の歩いた句の道は、仏の道であり、暮らし、学び、教えの道でもあったようだ。