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アナタハン島の怪悲劇 

 この事件は戦争の狂気の中で起きたようだ。昭和19年(1944)6月、マリアナ諸島のアナタハン島(東西12、南北4㌔、面積31・21平方㌖)にトラック諸島へ物資輸送をする海軍徴用船が、米軍機の襲撃を受けて沈没。兵士10名、徴用船員21名の20代前後の若者が孤島に流れ着いた。そこでは日本企業のヤシ栽培経営の農園技師と沖縄出身の女性・比嘉和子(22)2人の日本人と原住民50人余りが暮らしていた。  

 昭和20年の敗戦後、日本領土でなくなった島から原住民は逃げ出し、女性1人と32人の男性が残った。皆は、終戦を知る術もなく共同生活を送った。そして1人の女性をめぐる怪しい悲劇の連鎖が始まった。昭和36年の投降、帰国まで狂気の世界は続いた。


 ところで和子の夫がパガン島に妹を迎えに行き、行方不明になった後、島が米軍の空襲に遭った。和子は上司の技師とジャングルに逃げ込み助かった。だが、住む場所も着る物もなくなり困り果てたが、助け合うしかない2人は夫婦生活を始めた。豚や鶏がかろうじて生き残ったのと、バナナやパパイヤ、タロイモ、ヤシガニなどで食いつないでいた時、漂流者31人が島に上陸した。そして、女1人と男32人の生活が始まった。

 小さな孤島での奇妙な日々が続く中、昭和21年夏、墜落した米軍戦闘機の残骸で拳銃4丁と実弾が発見された。銃に詳しい男が「使える銃」2丁を組み立てた。銃を持つことで集団の力関係が変化、仲間の1人が亡くなった。和子に言い寄るしつこい男が射殺された。技師は和子から身を引き、銃を持つ男に譲った。男は夜釣りをしていて海で死んだ。次の銃持ちに和子が移って暫くすると、その男も死んだ。

 男たちは1人の女を巡って疑心暗鬼になり、重なる憎悪、復讐でお互いが争い、公然と殺しあった。5年余で怪死、病死、行方不明などで男13人の姿がなくなった。生きる性の現実の中「和子がいるから争う、元凶の和子を殺そう」との計画を聞き、和子はジャングルに隠れ、昭和25年、米国船に救出された。翌年、生き残った19人も帰還した。嘘のような本当の話、を知って驚いた。


 この怪事件は「アナタハンの女王」猟奇事件として報道され「和子プロマイド」も売り出されるなど好奇の目に晒されたが、昭和49年、52歳で亡くなる彼女の晩年は平穏な生活だったと言う。史実をもとにした桐野夏生の小説『東京島』があるようだ。


by inakasanjin | 2022-02-11 09:00 | 歴史秘話 | Comments(0)