2022年 01月 14日
角打ちコーヒーの「アンノラ」
福岡県みやこ町の平成筑豊鉄道「犀川駅」前に、気軽に立ち寄れる古民家カフェ「アンノラ」が、令和3年、秋、オープンした。古民家を借り、洒落た「文化スペース」を誕生させた若者は、過疎化の故郷を再興できれば、との願いから関西での仕事を切り上げて帰郷。宅地建物取引士の国家資格を取得するなど不動産会社の起業に併せて「カフェ経営」もスタートさせた。古民家再生は自力改装。床や天井、壁のリフォームは独学。柱や梁に柿渋を塗り、壁は漆喰で「現代古民家」に仕上げた。客席は16席、カウンターやテーブルなどはDIY(日曜大工)での自作。またアンティーク調度は寄贈によるものや譲り受けたものなどで配置を完成。特にサイクリング愛好家などに、ちょい寄り「コーヒーの立ち飲み、角打ちコーナー」を設けるなどの配慮。
そんなこんなの気遣い店主は、京都からのUターン青年の岩村宗一郎君(27)だ。彼は茶道・藪内流の茶人でもある。郷土愛の深い若者だ。
ところで文化はくり返されるというが、「角打ち」文化の発祥は北九州と言われる。
明治34年(1901)創業の官営八幡製鉄所などで働く労働者や門司港などの港湾での沖仲仕が、仕事帰りに酒屋に立ち寄り、店の一角に設けられたカウンターテーブルで、量売りされた日本酒を「枡の角に口をつけて飲む」や「店の隅(角)で飲む」習慣が「角打ち」の由来とされる、が、定かではない。そうした1日の勤めを終え、ひとときの安らぎの「角打ち」が全国に広まって定着したようだ。
日本人にとっては「無事に終わった1日」の「夕」が「角打ち」のようだ。これに対してヨーロッパは「エスプレッソ」ではなかろうか。エクスプレス(急行)が名の由来とされるエスプレッソは、コーヒー豆を極細挽きにし、高い圧力をかけて短時間で抽出、心地よい苦味と濃厚な風味を持つイタリア生まれの飲みモノで、朝、仕事に出かける前や食事の後に、小さなカップでぐ、ぐいっと2,3口飲んで出かけるのが通だそうだ。だとすると、西洋人の「1日の無事を」願う「朝」が「エスプレッソ」になるのだろう、か。どちらにしても「1杯ひっかける」生活のケジメではあるようだ。
人間の根源的な「仕草」は、そんなに違いは無いようだ。わが農耕民族の生き方は野良仕事が基本になる。店名の「Annola(アンノラ)」は、「庵」と「野良」をヨーロッパ風に命名。宗一郎君は、思う。「ここが若者の〝旅の目的地〟であってほしい」と。