2021年 07月 16日
「君が代」の「さざれ石」
平安時代、藤原朝臣石位左衛門が岐阜県揖斐川町春日にある巨岩を見て「わが君は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで」と詠み「古今和歌集」に採録された。
明治2年に薩摩藩の大山巌が、天皇臨席の儀式用の歌として選び、これを元歌として明治13年(1880)に曲がついて演奏され、国歌「君が代は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで」となっていった。歌詞にある「さざれ石(細石)」は、学名は石灰質角礫岩といい、小石と小石が繋がり、神聖な力を持つ大石となり、やがて苔をつけるとされる。
平成11年(1999)に「君が代」は「国歌」として法制化された。曲誕生から119年後、悠久の時を思えば僅かだ。歌詞の「さざれ石」は『万葉集』の戯笑歌に「天地の戯笑の歌の詠み初めは苔むす巌のさざれ石どき」とあるなど、古人の詠みが遺る、それを追う。
池水に岩ほとならむさゞれ石のかずもあらはにすめる月影 藤原雅経
さざれ石のなかの思ひのうちつけに燃ゆるとも人に知られぬるかな 式子内親王
信濃なる千曲の川のさざれ石も君し踏みてば玉と拾はむ 詠み人知らず
さざれ石心の御柱揺ぎなく千代に八千代に皇の國 佐藤一彦
アムールの川の川原のさざれ石をひりひてよせし君を思ほゆ 正岡子規
さざれ石やなれる岩城の千代の秋 西山宗因
いわをにはとくなれさざれいしたろう 小林一茶
注連飾る武甲山の巖さざれ石 山中伊世子
冬ざれの美濃の国なるさざれ石 大橋敦子
さざれ、といえば松尾芭蕉に「さざれ蟹足這ひのぼる清水哉」の句がある。
明治14年の「小学校唱歌集」に「君が代」は作詞者未詳で載っている。
♪君が代は ちよにやちよに さゞれいしの 巌となりて こけのむすまで
うごきなく 常盤かきはに かぎりもあらじ
♪きみがよは 千尋の底の さゞれいしの 鵜のゐる磯と あらはるゝまで
かぎりなき みよの栄を ほぎたてまつる
様々な儀式で「君が代」斉唱。いつ知れずともなく「さざれ石」は心のひだに刻まれる。