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言葉は、しずく

 長野県上田市にある戦没画学生慰霊美術館「無言館」の窪島誠一郎館長と懇談の機会があった。

 彼は、すらりと背が高く、ぼさぼさの白髪が印象的、苦労人であり、ズバリ本音でものを言う人であった。

 戦後65年目の夏、それも広島原爆投下の8月6日、福岡県行橋市での「椎野修絵画展」の記念講演に来橋。彼の生き方を含め「無言館のこと」を伝えてくれた。

 無言館は、1997年に開館。戦後50年を過ぎて、画家の野見山暁治さんと2人で戦死した画学生の家を訪ね歩き、絵を集め、40人程の戦没画学生の絵の展示からスタート、現在は108名、700点あまりの作品が蒐集されているという。駆け巡った折のエピソードなども話された。

 信州の山間の静かな郷に、戦争で亡くなった若者の絵が十字架の館の中に飾られて、在る。

 その「無言館」に、開館の日(1997・5・2)窪島氏自身が詠んだ「あなたを知らない」の詩が飾られている。こころ打つ、いい詩だ。

 その詩を、了解を得て、パネルに横書きで絵画展会場に飾った。それを見て「横書きですか」と窪島さん。そして


 「やはり縦でしょうね、日本の言葉は、しずく、ですから」


と言われた。返す言葉がなかった。

 言葉は、落ちてくるもの、なるほど、しずく、なのだ。とくに流れ下る日本語のかたち、そう、日本文化は縦の文化だ、和歌の上から下にくだる文字は心なごむ、詩も俳句も短歌も小説も縦に流れて心に響く。暮らしの中で何気なく見ていた文字が、横に並んでいるよりも縦に繋がるほうが日本人には馴染めるようだ。日本の縦社会の根本もここにあるような気もする。

 講演会終了後、窪島さんに、縦に直しました、と伝える。にっこり頷かれた。しかし、故意ではないにしろ気づかずに作者の気持を傷つけたことは、反省。ただ、嬉しいことは、この話を聞いた知人の奥さんが「縦と横を違えたから、言葉は、しずく、を聴けたのでしょう?」に納得。何が幸いするかわからない。災い転じて福となす、だ。

 夏、こぼれる、いい言葉、を掬えた。   


by inakasanjin | 2020-09-25 09:00 | 田舎日記 | Comments(0)