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セーラー服歌人―鳥居さん

 ホームレス歌人の公田耕一さんが姿を消して久しい。
 2016年2月、朝日新聞の「ひと」欄に「初の歌集を出すセーラー服の歌人・鳥居さん」の紹介があった。驚く経歴の持ち主だった。
 三重県出身で本名と年齢などは非公表、セーラー服姿のあどけない「顔写真」はあった。2歳で両親が離婚、病気がちだった母は寝たきり、小学5年の時、母は目の前で自殺した。その後、児童養護施設での虐待、小学校中退、ホームレス体験など悲惨な日々を送った。義務教育も受けられず、拾った新聞などで文字を覚え、出会った「短歌」も図書館に通って独学、12年から歌を作り始め『キリンの子―鳥居歌集』を上梓した。

    目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ 
    大きく手を振れば大きく振り返す母が見えなくなる曲がり角
    冷房をいちばん強くかけ母の体はすでに死体へ移る
    「死に至るまでの経緯」を何べんも吐かされていてこころ壊れる
    名づけられる「心的外傷」心ってどこにあるかもわからぬままで
    これからも生きる予定のある人が三か月後の定期券買う
    孤児院にサンタクロースの服を着た市長あらわれ菓子をばらまく
    みわけかたおしえてほしい詐欺にあい知的障害持つ人は訊く
    揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴 
    あおぞらが、妙に、乾いて、紫陽花が、路に、あざやか なんで死んだの

 彼女がセーラー服を着ているのは「卒業した」とされる中学校がどこにあるかも知らぬのに「形式卒業者」として扱われ、義務教育を受けられなかった者の学習の場である「夜間中学」にも15年までは入学できなかった。なので、学びの道を絶たれた者が、義務教育を受けたいという願いを込めた〝姿〟なのだそうだ。次の1首は衝撃だった。

    慰めに「勉強など」と人は言う その勉強がしたかったのです

 生きづらいなら短歌をよもう、と彼女の「いきづら短歌会」への入会者は増えており、岩岡千景『セーラー服の歌人鳥居―拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語』も刊行された。あたり前の「義務教育」の大切さを訴える、鮮烈な歌人の生き方を学ぼう。

by inakasanjin | 2020-07-31 09:00 | 文学つれづれ | Comments(0)